ベトナムで法人を設立したものの、その後事業を行わなくなり、会計・税務申告も長期間止まっている――。
実務では、このようなご相談を受けることがあります。
例えば、
- ベトナム法人を設立したが、結局ほとんど事業を行わなかった
- 売上がないため、税務申告も必要ないと思っていた
- 以前の会計事務所や担当者と連絡が取れなくなった
- 数年前から会社を使っておらず、現在どういう状態なのか分からない
- 税務署から連絡や通知が来たが、内容が分からない
- 会社を再開したい、または清算したいが、どこから手を付ければよいか分からない
といったケースです。
実際に会社を動かしていなくても、法人として正式な休止・清算等の手続がされていなければ、税務・会計その他の義務が残っている場合があります。
また、長期間そのままになっているケースでは、問題が「過去の申告を提出すれば終わり」という単純なものではなくなっていることもあります。
重要なのは、まず現在その会社が法務・税務上どのような状態になっているのかを確認することです。
「会社を使っていない」ことと「正式に休止している」ことは違います
よくある誤解の一つが、
「売上もないし、社員もいないし、銀行口座もほとんど使っていないので、実質的には休眠会社だから問題ないだろう」
というものです。
しかし、実際に事業をしていないことと、ベトナムの制度上、正式に事業休止等の手続が行われていることは同じではありません。
会社が企業登録上存続しているのであれば、会社の状況に応じて税務申告、会計、年次手続などの義務が残っている可能性があります。
そのため、
「何年間会社を使っていなかったか」よりも、「その期間、会社が制度上どういう状態になっていたか」
を確認することが重要です。
例えば、こんなケースです
以下は特定の案件ではなく、長期間動いていないベトナム法人で起こり得る問題を一般化した例です。
数年前、日本人投資家がベトナム法人を設立しました。
設立当初は事業を始める予定でしたが、計画が変更となり、実際にはほとんど営業活動を行いませんでした。
最初の数か月については会計事務所が税務申告をしていましたが、その後、担当者との連絡がなくなり、会社側も特に何もしないまま数年が経過しました。
本人としては、
「会社には売上がない」
「税金も発生していない」
「だから特に大きな問題にはならないだろう」
と考えていました。
ところが数年後、会社を再利用する、あるいは正式に閉鎖しようとして確認を始めると、
- どの時点まで税務申告されているのか分からない
- 過年度の申告が未提出になっている
- 電子税務システムにログインできない
- 電子署名の有効期限が切れている
- 過去の会計資料が十分に残っていない
- 法人口座の取引履歴を改めて確認する必要がある
- 資本金が登録どおり払い込まれているのか確認できない
- 税務当局から過去に通知が出ていた
といった問題が判明することがあります。
このような場合、まず必要なのは「過去数年分の申告書を急いで作ること」とは限りません。
会社の登録状況や税務上のステータス、過去の申告履歴、税務当局からの通知等を確認し、何が未処理なのかを整理することが先になります。
1.まず会社の現在の登録状況を確認する
最初に確認したいのは、会社そのものが現在どのような状態になっているかです。
例えば、
- ERC(企業登録証明書)の現在の内容
- 法定代表者
- 登録住所
- 会社の企業登録上のステータス
- 正式な事業休止手続の有無
- 税務上のステータス
- 登録住所で活動していない等の記録の有無
などを確認します。
特に長期間会社を動かしていない場合、経営者本人が認識している会社の状態と、当局のシステム上の状態が一致していないことがあります。
「休眠しているつもりだった」というだけでは十分ではありません。
2.最後に提出された税務申告を確認する
次に、どの時点まで税務申告が行われているのかを確認します。
会社の状況によって対象は異なりますが、例えば、
- VAT(付加価値税)
- CIT(法人所得税)
- PIT(個人所得税)
- FCT(外国契約者税)
- 年次財務諸表
- その他必要となる税務・会計上の提出物
などについて確認します。
ここで重要なのは、会社側が保有しているExcelファイルや申告書だけで判断しないことです。
「会計事務所に依頼していたから提出されているはず」と思っていても、実際に税務当局へ提出されたかどうかは別途確認が必要です。
可能であれば、電子税務システム等の提出履歴を確認します。
3.税務当局から過去に通知が出ていないか確認する
長期間動いていない会社では、過去に税務当局から通知等が出ていても、会社側が認識していないことがあります。
例えば、
- 登録住所に郵送されていた
- 以前の会計担当者が受け取っていた
- 登録メールアドレスが使用されなくなっていた
- 外国人代表者がベトナム国外にいた
といった事情です。
そのため、単に「今、税務署から何も言われていないから大丈夫」とは限りません。
過去の通知や処分の有無も含めて確認する必要があります。
4.未申告、未納税金、罰金、延滞金を整理する
未提出の申告や未納税金が確認された場合には、必要な申告・納付を整理します。
状況によっては、
- 過年度の税務申告
- 本来納付すべき税金
- 期限後申告等に関する行政上のペナルティ
- 税金の延滞に伴う金額
などが問題になります。
ただし、実際の金額や対応方法は、未処理の期間、税目、会社の取引状況、過去の当局対応等によって大きく異なります。
したがって、会社の状況を確認する前に「何年放置したから罰金はいくら」と単純に判断することはできません。
5.電子税務システムや電子署名が使えるか確認する
数年間動いていない法人の場合、実務上よく問題になるのが電子税務関係です。
例えば、
- 税務システムのID・パスワードが分からない
- 登録メールアドレスが使えない
- 登録電話番号が分からない
- 電子署名(USBトークン等)が手元にない
- 電子署名の有効期限が切れている
- 以前の会計事務所がすべて管理していた
といったことがあります。
この場合、過去の申告内容を確認したくても、そもそもシステムへアクセスできません。
そのため、必要に応じてアカウントや電子署名等の復旧・再設定から始めることになります。
6.銀行口座の履歴も重要です
長期間会計処理が止まっている場合、銀行口座の確認も重要です。
会社が「ほとんど活動していない」と考えていても、実際には、
- 設立時の入金
- 経費の支払
- 代表者等からの入金
- 他口座への送金
- 銀行手数料
- 利息
などの取引が存在していることがあります。
過去の会計帳簿が十分に残っていない場合には、銀行明細等から取引を再確認することもあります。
そのため、設立時から現在までの銀行資料をどこまで取得できるかは重要なポイントです。
7.資本金が登録どおり払い込まれているかも確認する
もう一つ見落としやすいのが資本金です。
ERCやIRC等に資本金額が記載されていても、それだけで実際にその金額が適切に払い込まれていることを意味するわけではありません。
特に、
- 設立手続を第三者に任せていた
- 数年前のことで本人の記憶が曖昧
- 資本金口座の資料が残っていない
- 通常の銀行口座への入金と資本金払込を混同している
といった場合には注意が必要です。
税務申告の問題を調べていたところ、別途、資本金払込について確認すべき事項が見つかることもあります。
この場合、税務だけを見るのではなく、会社登録・投資登録や銀行取引も含めて整理する必要があります。
税務問題が出国に影響する場合もあります
特に外国人の法定代表者等にとって注意したいのが、税務上の問題と出国との関係です。
ベトナムでは、一定の税務上の未履行がある場合について、法律上、出国停止措置が適用され得る制度があります。
もちろん、税務申告が遅れたからといって、すべてのケースで出国停止になるわけではありません。
一方で、
「会社を長期間使っていなかっただけなので、自分個人の出入国には関係ない」
と最初から考えてしまうのも適切ではありません。
会社の代表者等について出国停止が問題になる可能性がある場合には、税務当局側での未履行の内容や通知状況などを具体的に確認する必要があります。
また、出国停止制度については法令改正や運用変更もあるため、実際の案件ではその時点の規定を確認する必要があります。
問題が見つかったら、すぐに会社を閉鎖できるとは限りません
長期間動いていない会社について、
「もう使わないので、会社を清算して終わらせたい」
というご相談もあります。
しかし、未申告や未納税金などが残っている場合、直ちに会社の清算手続だけを進められるとは限りません。
一般的には、
- 現在の会社・税務上の状態を確認する
- 過去の未処理事項を特定する
- 必要な申告・納付・当局対応を行う
- 税務上の問題を整理する
- そのうえで会社の再開、休止または清算を検討する
という順番になることがあります。
したがって、最初の相談段階で清算に必要な期間や費用を正確に確定することが難しいケースもあります。
数年間放置していたからといって、最初からすべて分かっている必要はありません
長期間動いていないベトナム法人について相談される方の中には、
「昔の資料がほとんどない」
「以前の会計事務所と連絡が取れない」
「電子署名がどこにあるか分からない」
「自分でも何をしたか覚えていない」
という方もいます。
このような場合でも、最初からすべての資料が揃っている必要はありません。
例えば、
- ERC・IRC等の会社登録資料
- パスポート
- 手元に残っている税務申告書
- 銀行口座情報
- 電子署名
- 過去の会計事務所とのメール
- 税務当局からの通知
など、現在確認できる資料から整理を始めます。
分からないものについては、「分からない」という状態そのものを確認事項として整理していくことになります。
一番重要なのは「推測で処理を始めない」ことです
長期間申告していないことが分かると、
「とりあえず過去分を全部申告しよう」
「罰金を払えば終わるだろう」
「もう使わない会社だから清算申請を出そう」
と考えがちです。
しかし、会社のステータスや過去の通知、税務システムの状態によっては、先に別の手続が必要なことがあります。
また、申告書を提出する前に過去の取引や銀行履歴を確認すべきケースもあります。
そのため、特に数年間にわたって処理が止まっている法人では、
まず調査 → 状況整理 → 対応方針の決定
という順番で進めることが重要です。
EACH VIET NAMでの対応
EACH VIET NAMでは、ベトナムで事業を行う日系企業・日本人の方を対象に、会計・税務、会社手続、労務等のサポートを行っています。
通常の月次会計・税務申告だけでなく、
- 数年間税務申告を行っていない
- 以前の会計事務所と連絡が取れない
- 税務署から通知や連絡を受けた
- 自社の税務上の状態が分からない
- 電子税務システムへアクセスできない
- 過去の申告状況を確認したい
- 未申告・未納事項を整理したい
- 長期間動いていない法人を整理したい
- 会社を再開するか、休止・清算するか検討したい
といった段階からご相談いただくことも可能です。
日本語窓口で状況をお伺いし、ベトナム人会計・税務担当者等と連携しながら、まず何を確認する必要があるのかを整理します。
会社の状況が分からない場合には、最初から手続内容や費用を確定するのではなく、まず現状確認を行い、その結果に基づいて次の対応を検討することがあります。
「何年も会社を使っていないので、今どうなっているのか分からない」という段階でも構いません。
現在手元にある資料・情報から、確認を始めることができます。
※本稿は、ベトナム法人を長期間運営していない場合に生じ得る一般的な実務上の論点を整理したものであり、特定の案件・企業・個人の事例を記載したものではありません。実際に必要となる税務申告、行政手続、罰金その他の対応は、各法人の状況および当局の判断、適用される法令・運用によって異なります。個別案件については具体的な状況確認が必要です。