ベトナムで会社を設立する際、IRCやERCの取得が大きな節目になります。
しかし、実務上はERCを取得しただけでは、まだ会社を円滑に運営できる状態にはなっていません。ERC取得後には、銀行口座の開設、資本金の送金、税務・会計の初期設定、電子インボイス、労務・社会保険、外国人代表者・駐在員のWP/TRC、会社eIDなど、複数の手続きを順番に進める必要があります。
特に日系企業の場合、日本本社への説明、送金銀行への説明、現地会計事務所・弁護士・行政機関とのやり取りが重なり、設立直後から実務が複雑になりやすいです。
本記事では、ベトナム法人設立後、特にERC取得後に確認すべき初期手続きを整理します。会社設立前後の全体像については、立上げ・許認可支援もあわせて確認してください。
1. ERC取得は「会社設立完了」ではなく「運用開始の入口」
ERCは、Enterprise Registration Certificateの略で、ベトナム法人の企業登録証明書です。外資企業の場合、通常は投資プロジェクトに関するIRCを取得したうえで、法人そのものの登録としてERCを取得する流れになります。
ただし、ERC取得後にも、会社運営のための実務手続きが残ります。社印、銀行口座、労務、税務関連手続き、資本金の払込みなど、いわゆる設立後の初期手続きが必要となることがあります。
つまり、ERC取得はゴールではなく、会社を実際に動かすためのスタート地点と考えるべきです。
2. まず確認すべき初期手続き一覧
ERC取得後に確認すべき主な項目は、次のとおりです。
- 企業登録情報の確認
- 社印・電子署名・社内権限の整備
- 銀行口座の開設
- 資本金の送金・着金確認
- 税務・会計の初期設定
- 電子インボイス、レッドインボイスの登録
- 会計システム・証憑管理ルールの整備
- 雇用契約・給与計算・社会保険の準備
- 外国人のWP/TRC手続き
- 会社eID・代表者VNeIDなどの電子行政対応
- 日本本社向けの説明資料・管理資料の整備
個別の手続きだけを見るのではなく、全体の順番と担当範囲を整理しておくことが重要です。
3. 企業登録情報の確認
ERC取得後は、登録された会社名、住所、法定代表者、資本金、事業内容などが正しく反映されているかを確認します。
- 会社名の英語表記・略称
- 本店所在地
- 法定代表者
- 資本金額
- 出資者情報
- 登録事業内容
- IRCとERCの内容の整合性
設立直後は、まず登録情報の誤りがないかを確認し、銀行、税務、労務、契約書、インボイスなどの後続手続きに影響が出ないようにしておく必要があります。
4. 社印・電子署名・社内権限の整備
ベトナムでは、会社の社印や電子署名が実務上重要です。近年は電子行政、電子税務、電子インボイス、オンライン申告が一般化しているため、紙の社印だけでなく、電子署名、トークン、オンラインアカウントの管理権限を誰が持つかを明確にしておく必要があります。
制度上、社印や電子署名の扱いは以前より柔軟になっていますが、制度上の柔軟化と実務上の運用は別問題です。銀行、税務局、契約先、会計事務所とのやり取りでは、社印や署名権限の確認を求められることがあります。
- 社印の管理者
- 電子署名トークンの管理者
- 税務申告アカウントの管理者
- 電子インボイス発行権限
- 銀行取引の承認権限
- 日本本社への報告フロー
設立直後に、誰が何を管理するのかを整理しておくと、後続手続きが進めやすくなります。
5. 銀行口座の開設と資本金送金
外資企業の場合、銀行口座の開設と資本金送金は非常に重要です。通常の決済口座だけでなく、投資資本口座、いわゆるDICAの開設が必要となるケースがあります。
資本金の送金では、以下を事前に確認すべきです。
- 送金元名義
- 受取会社名
- 受取銀行口座の種類
- 送金目的の記載
- IRC/ERC上の資本金額
- 送金通貨
- 送金期限
- 銀行から追加説明を求められた場合の対応
会社形態や登録内容によっては、ERC発行日から一定期間内に資本金の払込みが求められることがあります。実務上は、日本側の送金銀行からも、送金目的、投資先事業内容、契約書、IRC/ERC、口座情報などの確認を求められることがあります。
そのため、資本金送金は単なる銀行送金ではなく、日本側銀行、ベトナム側銀行、IRC/ERC、会計処理をつなげて整理する必要がある手続きです。
6. 税務・会計の初期設定
ERC取得後、税務・会計の初期設定も必要です。企業登録番号が税務番号や社会保険番号として使われる場合でも、番号があるだけでは税務運用が自動的に整うわけではありません。
実務上は、以下の準備が必要です。
- 税務申告アカウントの設定
- 電子署名の登録
- VAT申告方法の確認
- CIT(法人税)の申告スケジュール確認
- PIT(個人所得税)の申告体制
- 会計年度の確認
- 勘定科目・会計ソフトの設定
- 月次報告の形式決定
- 会計事務所との業務範囲確認
設立直後にこの部分を曖昧にすると、後から「誰が何を申告するのか」「どの資料をいつまでに出すのか」「日本本社への月次報告をどう作るのか」が不明確になりがちです。
特に日系企業では、ベトナム税務申告だけでなく、日本本社側の連結、管理会計、内部統制、送金説明にも影響するため、最初に運用ルールを決めておくことが重要です。設立後の運用支援については、バックオフィス運用支援でも整理しています。
7. 電子インボイス、レッドインボイスの登録
ベトナムで売上を計上し、顧客にインボイスを発行するためには、電子インボイスの準備が必要です。電子インボイス関連の実務は制度変更や当局運用の影響を受けるため、設立時点の最新状況を確認する必要があります。
設立直後の会社では、以下を確認します。
- 電子インボイスサービス業者の選定
- 税務局への登録
- インボイスフォーム・記載事項の確認
- VAT税率の確認
- 売上計上タイミング
- 契約書・見積書・請求書との整合性
- 発行権限者の設定
- 発行後の保管ルール
日系企業が間違えやすいのは、日本の請求書感覚でベトナムのインボイスを扱ってしまうことです。ベトナムの電子インボイスは、単なる請求書ではなく、税務上の重要書類です。契約、納品、検収、支払、VAT申告と整合している必要があります。
8. 会計資料・証憑管理ルールの整備
設立直後から、会計資料の管理ルールを決めておくことも重要です。たとえば、以下の資料を誰が、いつ、どの形式で会計担当に渡すかを決めておく必要があります。
- 銀行明細
- 現金出納
- 契約書
- 見積書
- 請求書
- 電子インボイス
- 領収書
- 給与資料
- 勤怠資料
- 社会保険資料
- 立替経費資料
- 親子会社間取引資料
設立直後は取引量が少ないため、管理が甘くなりがちです。しかし、最初にルールを作らないと、数カ月後に資料が散らばり、会計事務所への提出が遅れ、月次レポートも遅れる原因になります。
ベトナム法人では、会計処理そのものよりも、証憑を適切に集める仕組み作りが重要です。
9. 労務・給与・社会保険の準備
ベトナム法人が従業員を雇用する場合、雇用契約、就業規則、給与計算、個人所得税、社会保険などの準備が必要です。外国人従業員についても、雇用条件や在留資格によって、社会保険や労務手続きの確認が必要となることがあります。
- 雇用契約書
- 給与体系
- 試用期間
- 勤怠管理
- PIT申告
- 社会保険登録
- 労働許可証が必要な外国人の有無
- 就業規則の要否
- 社内規程
- 日本本社からの出向者の取扱い
日系企業の場合、日本本社からの出向、現地採用、日本払い給与、ベトナム払い給与、住宅手当、出張手当などが混在することがあります。この場合、労務だけでなく、PIT、社会保険、会計処理、日本本社側の給与処理も含めて整理が必要です。
10. 外国人代表者・駐在員のWP/TRC
ベトナム法人の法定代表者や駐在員が外国人の場合、WP(Work Permit)やTRC(Temporary Residence Card)の要否確認が必要です。
外国人がベトナムで勤務する場合、勤務開始前後のスケジュール、役職、職務内容、学歴・職歴証明、健康診断、無犯罪証明、任命書や雇用契約など、複数の書類を確認する必要があります。
- その外国人にWPが必要か
- WP免除対象か
- 役職名と職務内容
- 学歴・職歴証明
- 無犯罪証明
- 健康診断
- 雇用契約または任命書
- TRC申請の可否
- 既存ビザとの整合性
WP/TRCは、会社設立後のスケジュールに大きく影響します。特に、代表者が外国人で、銀行、税務、電子行政、契約署名に関与する場合、設立後の各手続きと並行して早めに整理する必要があります。関連する電子行政対応については、VNeID・会社eID・WP/TRCに関する実務メモも参考になります。
11. 会社eID・VNeIDなどの電子行政対応
近年、ベトナムでは行政手続きの電子化が進んでいます。そのため、会社eIDや、外国人代表者・関係者のVNeIDが実務上問題になる場面が増えています。
会社設立後は、以下を確認しておくとよいです。
- 会社eIDが必要な手続き
- 代表者のVNeIDの要否
- WP/TRC申請との関係
- 電子インボイスとの関係
- 税務・行政ポータルのログイン権限
- 誰の電話番号・メールアドレスで登録するか
- 退職・代表者変更時の引継ぎ方法
特に注意すべきなのは、個人の電話番号、メール、VNeID、会社の行政アカウントが曖昧に紐づいてしまうことです。会社として管理すべきアカウントと、個人に紐づくアカウントを分けて整理することが重要です。
12. 日本本社向けに整理しておくべきこと
ベトナム法人の設立後、日本本社側でも多くの確認が発生します。
- 会社設立の完了状況
- 資本金送金の状況
- 銀行口座情報
- 会計・税務申告の担当者
- 月次レポートの提出時期
- インボイス発行開始時期
- 駐在員のWP/TRC取得状況
- 現地スタッフの雇用状況
- 当局登録の進捗
- 設立後に残っている課題
現地の会計事務所や弁護士から受け取った説明を、そのまま日本本社に共有しても、意思決定に使いにくいことがあります。日系企業では、現地実務を日本語で整理し、「何が完了しているのか」「何が未了なのか」「どのリスクがあるのか」「本社側で何を決めるべきか」を明確にすることが重要です。
13. 設立後に多いトラブル
ベトナム法人設立後に多いトラブルとして、以下があります。
- ERC取得後の手続きが整理されていない
- 銀行口座開設が遅れる
- 資本金送金で銀行から追加説明を求められる
- 電子インボイスの登録が進まない
- 会計事務所との役割分担が曖昧
- 月次レポートが遅れる
- WP/TRCのスケジュールがずれる
- 会社eIDやVNeIDで手続きが止まる
- 日本本社に状況を説明できない
- 現地スタッフ任せになり、全体像が見えない
これらは、個別手続きの問題というより、設立後の全体進行管理がないことから発生するケースが多いです。ベトナムでは、会計、税務、労務、法務、銀行、行政手続きが相互に関係します。
そのため、各専門家に個別に依頼するだけでなく、全体を見て整理する窓口が必要になります。個別論点の整理については、個別論点・本社説明支援でも説明しています。
14. まとめ
ベトナム法人は、ERCを取得しただけでは、実際に会社を運営できる状態にはなりません。ERC取得後には、銀行口座、資本金送金、税務・会計、電子インボイス、労務・社会保険、WP/TRC、会社eID、VNeID、日本本社向け説明など、多くの初期手続きが続きます。
特に重要なのは、次の3点です。
- ERC取得後の手続きを一覧化すること
- 銀行・税務・労務・行政手続きの順番を整理すること
- 日本本社が判断できる形で状況を説明すること
設立直後の数カ月で運用ルールを整えておくと、その後の月次会計、税務申告、労務管理、本社報告が安定しやすくなります。
EACHで支援できること
EACHでは、ベトナム法人の会社設立後の初期手続き、会計・税務・労務、WP/TRC、会社eID、当局対応、日本本社向け説明について、日本語での論点整理と進行管理を支援しています。
ベトナム法人設立後の手続きや運用体制に不安がある場合は、個別事情に応じて確認することをおすすめします。
設立後の初期手続きを日本語で整理したい場合
会社設立後の銀行、資本金送金、会計・税務・労務、WP/TRC、会社eID、本社向け説明まで、必要な論点を整理し、現地専門家と連携しながら進め方を確認します。