ベトナム法人の会計事務所は、年度途中でも変更できます。切替の前に、変更前の事務所(旧事務所)がどの月の記帳とどの申告まで担当し、変更後の事務所(新事務所)がどこから引き受けるかを決めます。あわせて、会計データ、税務申告資料、電子インボイス、給与・社会保険、各種システムへのアクセスの渡し方も決めます。ここが曖昧なまま変更すると、月次会計の空白、税務申告の漏れ、開始残高の不一致、過去の処理の責任範囲をめぐる認識違いが起きやすくなります。
担当期間と役割分担を決める
変更の時期について、年度末まで待たなければならないという一般的なルールはありません。四半期の税務申告の直前、年次決算や法定監査の進行中、税務調査や社会保険調査への対応中に変更する場合は、進行中の業務をどちらの事務所が完了させるかを先に決めます。
まず現在の契約で、解約通知期限、最低契約期間、最終月の報酬、引継ぎ対応、資料の返却、追加作業の料金を確認します。そのうえで次の日付を決め、文書に残します。
- 旧事務所との契約終了日
- 旧事務所が最後に記帳する月と、最後に提出する税務申告
- 新事務所が最初に記帳する月と、最初に提出する税務申告
- 会計データと関係資料の引渡予定日
契約終了日と記帳の担当終了月は、別の日にしてもかまいません。たとえば、契約は9月末で終了し、旧事務所が9月分の記帳と第3四半期の税務申告まで完了させ、新事務所が10月分から始めるという分け方もあります。
旧事務所と新事務所の契約期間を重ねることは必須ではありませんが、資料の確認と初月の準備のために一定期間は両方と連絡が取れる状態にすると、引継ぎが進みやすくなります。旧事務所との連絡手段は、引継ぎが終わるまで残してください。旧事務所への連絡では、契約上の解約通知と、担当期間・引継ぎ資料の確認を優先します。変更理由については、事実と今後のスケジュールを簡潔に伝えるのが現実的です。
全体の管理は依頼会社が行います。依頼会社は担当期間を決め、引継ぎ資料とアクセス権の管理責任者を置き、両方の事務所との連絡窓口になります。会計資料とシステムの管理権限は自社で確保します。
旧事務所は、合意した最終月までの業務を終え、会計データ、申告資料、明細、未解決事項を整理して引き渡します。未完了の作業や当局からの照会があれば、その内容も説明します。新事務所は受け取った資料を確認し、開始残高、総勘定元帳(GL)、試算表、税務申告と納付の履歴を確かめて、初月の記帳・申告のスケジュールを作ります。不足資料と開始時点の不一致は一覧にし、過去年度のレビューや修正が必要かを判断します。
ベトナムの会計法は、会計担当者が交代する場合、旧担当者が新担当者に会計業務と会計資料を引き継ぎ、旧担当者は自らが担当した期間の会計業務について責任を負うと定めています(統合文書25/VBHN-VPQH)。会計業務を外部に委託する場合は、業務内容、情報・資料の提供、報酬、責任範囲を書面の契約で定めるのが基本です。事務所間の引継ぎでは、この原則に加えて旧契約と新契約の内容を確認します。
引き継ぐ資料とアクセス権
新事務所が月次会計と税務申告を続けるには、直近の財務諸表だけでは足りません。会計数値の根拠、各明細、申告の履歴、システムへのアクセス、未解決事項まで確認できる状態で受け取ります。資料の一覧は依頼会社、新事務所、旧事務所の三者で共有し、提出状況を管理します。
- 会社・契約関係:ERC・IRCと変更履歴、定款、法定代表者・会計責任者の関連資料、会計年度・適用会計制度・会計方針、現在の会計サービス契約、監査契約と過年度の監査報告書、主要な取引契約・賃貸借契約・借入契約
- 会計データ:試算表、総勘定元帳(GL)、貸借対照表・損益計算書、売掛金・買掛金・現金・銀行(銀行調整表を含む)・固定資産と減価償却・在庫・前払費用・未払費用・引当金・資本金・借入金・関係会社取引の各明細、会計ソフトのバックアップまたはエクスポートデータ
- 税務資料:VAT・FCTの申告書、CITの計算資料と年次確定申告、PITの申告書と年次確定資料、納付証憑、税務当局からの通知・照会・調査資料、繰越欠損金・繰越VAT・過納税額の管理表、修正申告の履歴、移転価格文書
- 給与・社会保険:従業員一覧、給与計算データ、労働契約書、PIT登録・扶養者登録の情報、社会保険の加入者一覧と申告・納付の履歴、未処理の入退社・給与変更
- システムとアクセス権:電子税務ポータル、電子インボイスシステム、社会保険ポータル、会計ソフト、電子署名、税務当局・社会保険機関への登録メールアドレス、管理者アカウント
- 未解決事項の一覧:未記帳の取引、不足している請求書・契約書、税務上の確認事項、当局からの回答待ちの事項、監査法人からの質問で未回答のもの、未提出または修正予定の申告、依頼会社の確認待ちの会計処理、次月以降に処理する事項
パスワードは安全な方法で渡し、メール本文や一覧表に書いて回覧することは避けます。新事務所に権限を付与したあとは、旧担当者・旧事務所の不要なアカウントと権限を解除し、主要なパスワードを変更します。
引き渡した資料、データ、アクセス権、未解決事項と引渡日は、引継ぎ記録または議事録に残します。新事務所による最初の月次報告や税務申告では、開始残高、前月からの継続項目、税金の残高、給与・社会保険を重点的に確認してください。
費用は項目ごとに分けて確認する
引継ぎで旧事務所や新事務所がどこまで無償で対応するかについて、一律の料金や共通のルールはありません。「会計事務所を変更する料金」という一つの費目でまとめず、項目ごとに対応者と費用の決まり方を確認すると、費用と責任範囲がはっきりします。実務上よく見られる分け方は次のとおりです。
| 項目 | 主な対応者 | 費用の考え方 |
|---|---|---|
| 最終月の記帳・申告 | 旧事務所 | 既存契約の月額報酬、または契約終了時の精算条件による |
| 既存資料・会計データの通常の引渡し | 旧事務所 | 既存契約に含まれるか、終了時の引継ぎ対応として別途合意する |
| 特殊な形式でのデータ出力、大量の資料の再整理 | 旧事務所 | 通常業務外として追加費用になる場合がある |
| 過去期間の記帳未了・修正申告 | 旧事務所または新事務所 | 担当期間、原因、契約内容を確認し、別途見積りとすることが多い |
| 初期設定・開始残高の確認・システム移行 | 新事務所 | 初期導入費用として設定するか、月額報酬に含める |
| 過去年度のレビュー・会計データの修復 | 新事務所 | 通常の月次業務とは分けて、対象期間と作業量に応じて見積もる |
旧事務所に追加作業を頼む場合は、その範囲と費用を事前に確かめます。未払報酬や契約上の精算が残っている場合は、資料の引継ぎと並行して早めに整理します。
新しい会計事務所との契約で確認すること
新しい事務所との業務範囲が曖昧なままだと、変更後に同じ問題が起こりえます。契約の前に、変更の理由が対応速度、会計の品質、税務判断、日本語での説明、本社への報告、給与・労務を含む業務範囲のどこにあるかを整理し、新しい事務所に求める業務を決めます。そのうえで次の点を確認します。
- 会計・税務サービスを提供するための登録と体制
- 月次・四半期・年次に対応する業務と、給与計算・PIT・社会保険を含むか
- 日本人窓口と実務担当者の役割
- 毎月提出する資料とその期限、月次報告の納期と成果物
- 税務申告前の確認・承認の方法
- 監査法人対応の範囲、過去年度レビューの有無、過去の誤りを見つけた場合の対応、通常報酬に含まれない作業
- 契約終了時のデータ形式と引継ぎ方法
最後の項目を契約開始の時点で決めておくと、将来また委託先を変えるときにも業務が属人化しにくくなります。
引継ぎが不十分な場合と、切替前のレビュー
今の事務所への不満が、担当者との連絡方法、月次報告の形式、資料提出の遅れ、社内と事務所の役割分担にあるなら、契約を続けたまま運用を見直して改善できることがあります。開始残高が合わない、申告内容の説明が得られない、会計データを受け取れない、未処理事項が長く残っているといった場合は、切替の前に第三者が現在の会計・税務の状況を確認する方法もあります。このレビューでは、直近の試算表とGL、税務申告書、税金の納付状況、売掛金・買掛金・銀行・固定資産の明細、過年度の監査報告書、税務当局からの通知、会計事務所との契約内容を確認します。現状を把握してから、運用の改善で足りるのか、変更が必要なのかを判断すると、不要な混乱を避けられます。
引継ぎ資料が足りない場合は、過去数年分の再入力に取りかかる前に、どの資料があり何が足りないか、会計ソフトから何を出力できるか、税務申告書と会計データが一致しているか、直近の確定残高として何を使えるか、次の申告までに最低限必要な資料は何かを確かめます。そのうえで、過去期間の修正が必要か、必要なら誰の担当範囲として直すかを決めます。会計データがPDFしかなく、GL、明細、会計ソフトのバックアップがない場合でも変更はできますが、開始残高の確認や過去の処理の分析に追加作業が必要になることがあります。
新しい事務所は、引継ぎを受けただけで過去の全期間に責任を負うわけではありません。過去年度のレビュー、再記帳、修正申告、税務当局への対応が必要な場合は、月次業務とは別に対象期間、確認範囲、修正方法、成果物、費用を合意します。旧事務所との間で資料や報酬をめぐる紛争がある場合は、会計の引継ぎと契約上の問題を分けて扱い、必要に応じて弁護士等に確認してください。
当社では、会計・税務サービスをEACH VIET NAMの登録事業として行い、監査そのものはライセンスを持つ監査法人が行います。
参考法令:ベトナム会計法(統合文書25/VBHN-VPQH)(会計担当者交代時の引継ぎ、会計サービス契約、会計サービス提供者の責任)
ベトナムで会計事務所の変更を検討している方へ
現在の契約、最新の試算表・GL、税務申告の状況、使用しているシステムをお知らせいただければ、切替の進め方、旧事務所と新事務所の役割、必要な資料、初月のスケジュールを日本語で整理します。初回オンライン相談は60分無料です。