ベトナム法人の会計・税務を外部の会計事務所へ委託している場合でも、年度途中を含め、必要に応じて委託先を変更することは可能です。
ただし、単に現在の契約を終了し、新しい会計事務所と契約すれば完了するわけではありません。
旧会計事務所がどの月までの記帳・申告を担当するのか、新会計事務所がどの時点から責任を持つのか、会計データ、税務申告資料、電子インボイス、給与・社会保険、各種システムへのアクセスをどのように引き継ぐのかを、事前に明確にする必要があります。
引継ぎが曖昧なまま変更すると、月次会計の空白、税務申告の漏れ、開始残高の不一致、過去処理の責任範囲をめぐる認識違いが生じる可能性があります。
この記事では、ベトナムで会計事務所を変更する際に確認すべき契約、役割分担、引継ぎ資料、費用、実務上の切替手順を整理します。
先に確認したい4つのポイント
旧会計事務所が最後に対応する月・申告を決める
新会計事務所が最初に対応する月・申告を決める
会計データ、税務資料、アクセス権、未解決事項を一覧で引き継ぐ
通常業務、引継ぎ、過去レビュー、修正対応の費用を分けて確認する
会計事務所は年度途中でも変更できるか
ベトナムの会計事務所を変更する時期について、必ず年度末まで待たなければならないという一般的なルールはありません。
一方、実務上は変更時期によって引継ぎの難易度が変わります。
四半期税務申告の直前、年次決算・法定監査の進行中、税務調査・社会保険調査への対応中などに変更する場合は、現在進行している業務を誰が完了させるのかを明確にする必要があります。
変更時には、少なくとも以下の日付を決めます。
- 旧会計事務所との契約終了日
- 旧会計事務所が最後に記帳する対象月
- 旧会計事務所が最後に提出する税務申告
- 新会計事務所が最初に記帳する対象月
- 新会計事務所が最初に提出する税務申告
- 会計データと関係資料の引渡予定日
契約終了日と会計業務の担当終了月は、必ずしも同じとは限りません。
たとえば、契約自体は9月末で終了しても、旧会計事務所が9月分の記帳と第3四半期税務申告まで完了し、新会計事務所が10月分から開始するという整理も考えられます。
旧会計事務所・新会計事務所・依頼会社の役割
会計事務所の変更では、旧会計事務所と新会計事務所だけに任せるのではなく、依頼会社自身が全体を管理する必要があります。
CLIENT COMPANY
依頼会社
- 既存契約の解約通知期限と終了条件を確認する
- 旧事務所と新事務所の担当期間を決定する
- 引継ぎ資料とアクセス権の管理責任者を決める
- 未払報酬、追加作業、過去修正の費用を確認する
- 会計資料とシステムの管理権限を自社で確保する
- 旧事務所と新事務所の連絡窓口になる
CURRENT FIRM
旧会計事務所
- 契約上合意した最終月までの業務を完了する
- 会計業務と会計資料を引き継ぐ
- 会計データ、申告資料、明細、未解決事項を整理する
- 未完了作業や当局からの照会事項を説明する
- 自らが担当した期間の業務について責任を持つ
- 追加作業が必要な場合は業務範囲と費用を明確にする
NEW FIRM
新会計事務所
- 引継ぎ資料の受領状況を確認する
- 開始残高、GL、税務申告状況等を確認する
- 初月の記帳・申告スケジュールを作成する
- 不足資料と未解決事項を一覧化する
- 過去年度レビューや修正が必要かを判断する
- 通常業務と過去対応の範囲・費用を分けて提示する
ベトナム会計法では、会計担当者を変更する場合、旧担当者は新担当者に会計業務と会計資料を引き継ぎ、旧担当者は自らが担当した期間の会計業務について責任を負うことが定められています。
また、外部へ会計サービスを委託する場合は、業務内容、情報・資料の提供、報酬、責任範囲等を、書面契約に基づいて整理することが基本となります。
実際の会計事務所間の引継ぎでは、法令上の基本原則に加えて、旧契約と新契約の内容を確認することが重要です。
引継ぎ費用は誰が負担するのか
会計事務所を変更する際、旧会計事務所または新会計事務所が無償でどこまで対応するかについて、一律の料金や共通ルールがあるわけではありません。
依頼会社は、旧会計事務所と新会計事務所のそれぞれについて、通常業務と追加業務を分けて確認する必要があります。
実務上は、次のように整理されることが多くあります。
最終月の記帳・申告
- 主な対応者
- 旧会計事務所
- 費用の考え方
- 既存契約の月額報酬または契約終了時の精算条件による
既存資料・会計データの通常の引渡し
- 主な対応者
- 旧会計事務所
- 費用の考え方
- 既存契約に含まれるか、終了時の引継ぎ対応として別途合意する
特殊形式でのデータ出力・大量資料の再整理
- 主な対応者
- 旧会計事務所
- 費用の考え方
- 通常業務外として追加費用となる場合がある
過去期間の記帳未了・修正申告
- 主な対応者
- 旧会計事務所または新会計事務所
- 費用の考え方
- 担当期間、原因、契約内容を確認し、別途見積りとすることが多い
初期設定・開始残高確認・システム移行
- 主な対応者
- 新会計事務所
- 費用の考え方
- 初期導入費用として設定するか、月額報酬に含める
過去年度のレビュー・会計データ修復
- 主な対応者
- 新会計事務所
- 費用の考え方
- 通常の月次業務とは分けて、対象期間と作業量に応じて見積もる
重要なのは、「会計事務所を変更するための料金」という一つの費目で考えないことです。
最終月の通常業務、資料の引渡し、過去の未処理作業、新事務所の初期確認、過去年度レビュー、修正申告などを分けて確認すると、費用と責任範囲が明確になります。
未払報酬や契約上の精算が残っている場合は、資料引継ぎと並行して早めに整理することが望まれます。
引継ぎ時に受け取る資料・データ
引継ぎ資料は、単に直近の財務諸表だけでは不十分です。
新しい会計事務所が月次会計と税務申告を継続するためには、会計数値の根拠、各明細、申告履歴、システムへのアクセス、未解決事項を確認できる状態にする必要があります。
会社・契約関係
- ERC、IRCおよび変更履歴
- 定款、法定代表者・会計責任者関連資料
- 会計年度、適用会計制度、会計方針
- 現在の会計サービス契約
- 監査契約および過年度監査報告書
- 主要取引契約、賃貸借契約、借入契約
会計データ
- 直近の試算表
- 総勘定元帳(GL)
- 貸借対照表、損益計算書
- 売掛金・買掛金明細
- 現金・銀行勘定の明細と銀行調整表
- 固定資産台帳、減価償却明細
- 在庫明細
- 前払費用、未払費用、引当金等の明細
- 資本金、借入金、関係会社取引の明細
- 使用中の会計ソフトのバックアップまたはエクスポートデータ
税務資料
- VAT申告書
- CIT計算資料および年次確定申告
- PIT申告書および年次確定資料
- FCT申告書
- 税金の納付証憑
- 税務当局からの通知・照会・調査資料
- 繰越欠損金、繰越VAT、過納税額等の管理表
- 修正申告履歴
- 移転価格文書その他の税務関連資料
給与・労務・社会保険
- 従業員一覧
- 給与計算データ
- 労働契約書
- PIT登録情報
- 扶養者登録情報
- 社会保険加入者一覧
- 社会保険申告・納付履歴
- 未処理の入退社・給与変更事項
システム・アクセス権
- 電子税務ポータル
- 電子インボイスシステム
- 社会保険ポータル
- 会計ソフト
- 電子署名・デジタル署名
- 税務当局、社会保険機関等への登録メールアドレス
- 必要な管理者アカウント
パスワードをメール本文や一覧表へそのまま記載して回覧するのではなく、安全な方法で引き継いでください。
引継ぎ完了後は、旧担当者・旧会計事務所の不要なアクセス権を解除し、主要パスワードを変更することが望まれます。
未解決事項一覧
- 未記帳取引
- 不足している請求書・契約書
- 税務上の確認事項
- 当局から回答待ちの事項
- 監査法人からの未回答質問
- 未提出または修正予定の申告
- 顧客確認待ちの会計処理
- 次月以降に処理すべき事項
会計データだけでなく、「何がまだ終わっていないか」を一覧で引き継ぐことが重要です。
会計事務所変更の実務手順
現在の契約を確認する
解約通知期限、最低契約期間、最終月の報酬、引継ぎ対応、資料返却、追加作業の料金等を確認します。
変更理由と新事務所へ求める業務を整理する
単に対応速度の問題なのか、会計品質、税務判断、日本語説明、本社報告、給与・労務を含む業務範囲の問題なのかを整理します。
旧事務所と新事務所の担当期間を決める
最後に旧事務所が対応する月・申告と、新事務所が開始する月・申告を文書で明確にします。
引継ぎ資料一覧を作成する
旧事務所任せにせず、依頼会社、新事務所、旧事務所で資料一覧と提出状況を共有します。
新事務所が開始残高と申告状況を確認する
GL、試算表、税務申告、納付履歴、各明細を確認し、開始時点の不足・不一致を一覧化します。
引継ぎ記録を残す
引き渡した資料、データ、アクセス権、未解決事項、引渡日を記載した引継ぎ記録または議事録を作成します。
アクセス権を切り替える
新事務所への権限付与後、旧事務所の不要なアカウント・権限を解除し、必要に応じてパスワードを変更します。
最初の月次・申告を重点確認する
新事務所による最初の月次報告または税務申告では、開始残高、前月からの継続項目、税金残高、給与・社会保険を重点的に確認します。
新しい会計事務所を選ぶ際に確認すること
会計事務所を変更しても、新しい委託先との業務範囲が曖昧であれば、同じ問題が再び起こる可能性があります。
新しい会計事務所との契約前に、少なくとも次の点を確認します。
- 会計・税務サービスを提供するための登録・体制
- 月次、四半期、年次で対応する具体的業務
- 日本語窓口と実務担当者の役割
- 毎月提出する資料と提出期限
- 月次報告の納期と成果物
- 税務申告前の確認・承認方法
- 給与計算、PIT、社会保険を含むか
- 監査法人対応をどこまで支援するか
- 過去年度のレビューを行うか
- 過去の誤りを発見した場合の対応方法
- 通常報酬に含まれない作業
- 契約終了時のデータ形式と引継ぎ方法
将来再び委託先を変更する可能性も考え、契約開始時点でデータの管理方法と終了時の引継ぎ方法まで確認しておくと、属人化を防ぎやすくなります。
すぐに解約せず、現状レビューを行う方法もある
現在の会計事務所に不満がある場合でも、必ずしも直ちに契約を終了する必要はありません。
問題が、担当者との連絡方法、月次報告の形式、資料提出の遅れ、社内と会計事務所の役割分担にある場合は、運用方法を見直すことで改善できることがあります。
一方、開始残高が合わない、申告内容の説明が得られない、会計データを受け取れない、未処理事項が長期間残っている場合は、切替前に現在の会計・税務状況を第三者が確認する方法もあります。
事前レビューでは、たとえば次の資料を確認します。
- 直近の試算表とGL
- 直近の税務申告書
- 税金の納付状況
- 売掛金・買掛金・銀行・固定資産の明細
- 過年度監査報告書
- 税務当局からの通知
- 会計事務所との契約内容
現状を把握したうえで、現在の事務所との運用改善で足りるのか、委託先変更が必要なのかを判断する方が、不要な混乱を避けやすくなります。
引継ぎが十分に行われない場合
引継ぎ資料が不足している場合は、直ちに過去数年分をすべて再入力するのではなく、まず以下を整理します。
- どの資料が存在するか
- どの資料が不足しているか
- 会計ソフトから何を出力できるか
- 税務申告書と会計データが一致しているか
- 直近の確定残高として何を使用できるか
- 次回申告までに最低限必要な資料は何か
- 過去期間の修正が必要か
- 誰の担当範囲として修正するか
新しい会計事務所は、引継ぎを受けただけで過去の全期間について自動的に責任を負うわけではありません。
過去年度のレビュー、再記帳、修正申告、税務当局対応が必要な場合は、通常の月次業務とは別に、対象期間、確認範囲、成果物、費用を合意する必要があります。
旧会計事務所との間で資料や報酬に関する紛争がある場合は、会計実務上の引継ぎと契約上の問題を分けて整理し、必要に応じて弁護士等へ確認してください。
よくある質問
年度途中でも会計事務所を変更できますか?
可能です。ただし、旧事務所と新事務所がそれぞれ何月分から何月分までを担当するのか、次の税務申告をどちらが行うのかを明確にしてください。
旧会計事務所と新会計事務所を重複させる必要がありますか?
必須とは限りませんが、資料確認と初月準備のため、一定期間を重ねて連絡できる状態にすると引継ぎが進みやすくなります。少なくとも、旧事務所との連絡手段を引継ぎ完了前に切らないことが重要です。
引継ぎ費用は旧会計事務所と新会計事務所のどちらに払いますか?
それぞれの契約と作業内容によります。旧事務所には最終月業務、資料整理、追加対応等、新事務所には初期設定、開始残高確認、過去レビュー等の費用が生じる場合があります。
新しい会計事務所は過去の誤りも修正してくれますか?
通常の月次サービスに自動的に含まれるとは限りません。対象期間、確認範囲、修正方法、修正申告の要否、費用を別途確認してください。
会計データがPDFしかない場合でも変更できますか?
変更自体は可能ですが、GLや各明細、会計ソフトのバックアップ等がない場合、開始残高の確認や過去処理の分析に追加作業が必要となる可能性があります。
現在の会計事務所へ変更理由を詳しく説明する必要がありますか?
契約上必要な解約通知を行い、引継ぎに必要な担当期間と資料を明確にすることが優先です。関係を不必要に悪化させず、事実と今後のスケジュールを簡潔に伝える方法が現実的です。
EACHによる会計事務所変更・引継ぎ支援
EACHでは、ベトナム法人の会計事務所変更を検討している場合、まず現在の契約、会計資料、税務申告状況、使用システム、未解決事項を確認します。
そのうえで、以下を日本語で整理します。
- 現在の会計・税務状況
- 旧事務所が完了すべき業務
- 新事務所が開始する業務
- 必要な引継ぎ資料
- 不足資料と未解決事項
- 過去レビューの要否
- 切替スケジュール
- 通常業務と追加業務の範囲
- 想定される費用
会計事務所を変更するかまだ決めていない段階でも、現在の運用を確認し、変更が必要か、現在の事務所との改善で対応できるかを整理します。
会計・税務サービスはEACH VIET NAMの登録事業として対応します。監査業務そのものはライセンスを有する監査法人が実施し、法律・契約上の確認が必要な場合は、必要に応じて弁護士等と連携します。
月次会計、税務、給与・社会保険を含む支援範囲は、バックオフィス運用支援をご覧ください。登録内容や支援体制は、EACH VIET NAMの会社情報で確認できます。
参考法令
- ベトナム会計法(統合文書25/VBHN-VPQH)
会計担当者変更時の引継ぎ、会計サービス契約、会計サービス提供者の責任等
ベトナムの会計事務所変更について相談する
現在の契約、最新の試算表・GL、税務申告状況、使用システム等を確認し、切替の進め方、旧事務所と新事務所の役割、必要資料、初月のスケジュールを日本語で整理します。初回オンライン相談は60分無料です。